最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)1140号 判決 1959年8月28日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人代表者入江茂吉の上告理由第一点、第二点および第五点(第八点の(イ)(ロ)(ハ)(ホ))について。
訴外野村律司から被上告人に対し本件差押物件が譲渡された当時該物件が訴外大東商事株式会社の所有に属していたこと、右譲渡が強制執行を免れるためになされた仮装行為あるいは詐害行為であることは、いずれも上告人が原審で主張していないのであるから、論旨はすべて採用に値しない。
同第三点(第八点の(ニ))について。
原判決において確定された事実関係は、上告人は昭和三〇年九月二二日、訴外野村律司に対する執行力ある判決正本に基き原判決添付の第一、第二目録記載の有体動産に対し差押(第一回の差押)をなしたが、被上告人は昭和三一年八月一三日、右訴外人に対する準消費貸借上の債権の担保のため差押中の右物件を同人から売買名義で譲り受け、これを同人に無償で貸与することを約して占有改定の方法による引渡を受けたところ、上告人は同年九月三日一旦右差押を解除し、前記同一の債務名義により同日更に右物件に対し差押(第二回の差押)をなした、というのである。
しかし、前記第一回の差押処分により執行吏が前記有体動産に対する占有を取得した場合でも、差押債務者である訴外野村律司は右差押物件に対する占有権を喪失するものではないと解するのが相当である。したがつて、同訴外人と被上告人との間でなされた右物件の譲渡ならびに占有改定の方法による引渡は、これをもつて差押の存続する間差押債権者たる上告人に対抗できないのは格別、前記第一回の差押が解除された結果、被上告人は右譲受および引渡により前記物件の所有権を取得したことを上告人に対抗しうるに至つたものと解すべきであるから、これと趣旨を同じうする原審の判断は正当として是認することができる。されば所論は理由がない。
同第四点について。
仮差押による目的物の処分禁止の効力が本差押へ移行する場合に当然に存続することと、差押の解除によりその効力がなくなることとは全く別問題なのであるから、所論は独自の見解であつて採用できない。
同第六点および第七点について。
原判決は、所論のように民訴六五〇条を適用したものではなく同条の法意を援用したにとどまるのであるし、また無効な譲渡に対する追認の事実も差押解除後に引渡があつた事実も判示してはいないのである。更に所論第一回の差押の効力がその解除によつて消滅したことは原判示事実により明らかである。したがつて所論はすべて採用することができない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)